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交換日記





「校内は携帯禁止だよーはい、没収」

おっさんって呼んでるけど、一応、物理学教師のレイヴン先生からそう言われて、あたしはしぶしぶ携帯を渡した。それは、お昼休み、エステルからのメール返信をする為に打っていたのを見つけられた。一つ年上、二年生のエステルから放課後のお誘い。この学園に転入してから出来た初めての親友。学園一、可愛くって、綺麗な女の子。そんな親友はあたしの密かな自慢。だから、早く、返信しなくっちゃって思ったから、誰も居ない科学教室で打っていたのに。
学園内での携帯は禁止って分かってるわよ。仕方ないじゃない。エステルからなんだもの。

「あんた担任じゃないんだから、返してよ」

そう言ったのは放課後。おっさんの住処みたいな科学教室の準備室。エステルからの返信着てるんだから、早くしなさいよ、と凄んでみたけど、ニタニタと笑うだけで何だか気味が悪い。まさか、携帯見てないないでしょうね。

「どうしよかなあ。あ、じゃあ。返す代わりの交換条件。おっさんと交換日記しない?」

と言われて、何故か、色気も何もない大学ノートがあたしの机の前にある。
あの教師──おっさんはあたしを見つけるとちょっかいを掛けてくる。転校初日、出会った頃から第一印象は最悪だったけど、今はもっと最悪。他の生徒から人気があるのも知ってる。エステルが何故かあのおっさんを慕ってるのも知ってる。時々、あたしが一人で居る時、見つめてるのも知ってる。ねえ、どうしてあたしのこと見てるの?

「はあ?今時、交換日記ってね」
「あらーおっさんの中学生時代なんて皆してたわよ」
「おっさんとは時代が違うの。そもそもあんた幾つよ」
「三十五歳。あ、誕生日は三日前に、済んだけどプレゼントは受付中よ」
「何言ってんのよ」
「はい、これが交換日記帳。携帯返すかわりの約束だからね」

携帯は返して貰ったけど、三日前って言う事は、十五日か。
あれ?なんで、あんなおっさんの誕生日、覚えようとしてるのよ。

「大体、言いだした方が書きなさいよ」

ノートは真っ白。今のあたしの気分。

「何書けばいいのよ……」

ノートを目の前にして、何も思い浮かばない。


「あら、リタっち、何か用?」

相変わらず、眠たげな、胡散臭い顔をしているわよね。翌日の放課後。あたしは、物理学教師を前にして居た。それに、何か用ってなによ。あんたが、言いだしたんでしょう。早々に忘れてるの?そう思うと少しだけ哀しいって、これ、どういう意味なんだろう?

「はい、交換日記、書いたからいいでしょ」
「あ、もう書いてくれたの?」
「何よ。それどういう意味?」
「いやー、リタっちがこんなに早く書いてくれるかと思わなかったし」

悔しい。またからかう目的だったの?何よ。あたしが必死になって書いたのに。それに、何なの?予想外の嬉しそうな顔。その眼、他の生徒なんかに見せない眼差しよね?どうして、あたしにそんな眼をするの? それにあたしもどうして、その視線が他の生徒と違うってわかってるんだろ?
ふん、だ。

「じゃあ、あたし帰るから」
「え、もうかえんの?」
「いいでしょ。書いたんだから、あんたも返事書きなさいよ」

あたしは、散々悩んで固有反応エネルギーを立証するレポートを日記に書いた。
あのおっさんが、どういう反応を示すか、分からないけど。

ちょっとはおっさんも化学反応起こしてくれるかな。

あたしは今おっさんがどんな顔をしているのか分からないけど、きっと、困ったようなあの笑顔を浮かべていると思った。嫌いだけど、あのおっさんなら、あたしのレポートを真面目に目を通してくれるような気もするから。



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