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SummerHappyWedding?

荘厳なステンドグラスからこぼれる光の中で、新たな人生の門出を迎える二人。若い女性ならそれだけでも憧れるようなシチュエーションの中、レイヴンはやや退屈気味に生欠伸を噛み殺すのが精一杯だった。

レイヴン自身が、その門出を迎える訳ではない。

誓いのキスを終えた二人を見送る為にとチャペルの外に退席したのは良かったのだが、梅雨の晴れ間。あまり着慣れない黒のジャケット、細い縞のグレイのスラックス姿はディレクターズスーツ。いわゆる準礼服姿で外に出てみれば、やはり、むせ返るような湿度が襲ってくる。だが、本日はお日柄もよくという慶事の日には、そんなうんざりした顔もできずに、レイヴンは、幾人かの知り合いに愛想笑いを浮かべる。

ここは、学園内にある教会。正確にいえば、大学部に併設されているチャペル。何故、カトリック系でもない学園にチャペルがあるのかは謎だったが。

重厚な扉が開けられると初夏の日差しを浴びてきらきらと輝くのは、今日はその人だけが許される純白のドレスに身を包んだ女性と、それを見守る男性が歩いてくる。この世界で一番、幸せそうな二人。まだ若い二人はそれだけでも、絵になるような光景だったが、この男だけは別の事を考えていた。

何でもいいから早く終わって。おっさん倒れるわ。体力ないのよ。

ゲストであるレイヴンがジャケットを脱ぐことも出来ず、しかも、ご丁寧にジャケットの下にはシルバーグレイのベスト着用。普段なら男のダンディズムだとか訳の分らぬ事を言いながら、無造作に第二ボタンまで開けたシャツを着ているのだが、きっちりとボタン閉じたウィングカラーのシャツにこれまた絞めなれないネクタイ着用。ついでに、髪も下ろし、無精ひげも当然ながら剃っている。

ジューンブライドなんて、参加する方の身考えてよ。

レイヴンが、そう思うのも無理はない。昨日まで降り続いていた雨が止んだと思えば、今日は初夏の日差し。流れる汗をハンカチで拭うも、早く帰りたいと本音も漏れそう。

卒業生の二人が学園内の教会で挙式をするので、元担任であったレイヴンにも参列して欲しいと打診してきたのは、数ヶ月前。断りの返信をしなければと思いつつ、余り興味もなく、放置していた案内の葉書を見つけられたのは、挙式一か月前だったろうか。

『おっさん、これ何?』

自宅のリビングでノートパソコンのキーボードを叩いていたレイヴンに、ピラピラと何か紙を振って見せたのは、学園内で見かけるセーラー服を着た歳下の彼女。遥かに歳下過ぎて世間では犯罪だのロリコンだの言われる年代なのだが。テーブルの隅に追いやられていたその招待状と書かれた葉書を見つけたのは、その彼女──リタだった。

『ああ、それ忘れてたわ』
『結婚式の招待状じゃない。場所って、学校のチャペルになってるけど、うちの卒業生?』
『うん、何年か前の卒業生。三年の時、二人の担任してたの』
『ふうん』

その口振りからリタにとっては、余り興味を惹かないものだろうと思った。

『もう期日近いんじゃない?』
『いい加減、返信しないとねえ。リタっち、ペンと定規持ってる?』

レイヴンの横で本を読んでいたリタは学校帰りのまま。カバンの中からごそごそと取りだすと、はい、とペンケースを渡された。

『行くの?』
『行かないよ。おっさん、そんなの興味ないもん』
『……行けばいいのに』
『へ?』

珍しいこともあるもんだとレイヴンは、欠席の欄にペン先を置きかけた手を止めた。なんか悪だくみでもあるの?とレイヴンは思うのだが、それは自分自身がそんな性格からだろう。

『せっかく、二人が呼んでくれてるんだから出てあげたらいいじゃない。それに、この日、あたし、エステル達と約束してるから一日、居ないわよ』
『何で?』
『パティが観たい映画の公開日なんだって。エステルは買い物したいからって』

なんだ、そんなこと、とレイヴンは安堵する。それとも、おっさん一人にするのに後ろめたさでもあるのかねえ、と考えてみたのだが、当のリタはどう思っているのやら。

『えーせっかくリタっちと過ごしたいのにー制服じゃないリタっちと一緒に居たいのにー』

欠席したい理由を言ってみるも、当の彼女は、あからさまに嫌悪の表情を浮かべた。

『キモイ……それに、エステルやパティも居るのよ』

当然ながら二人の関係は、親友であろうが秘密。普通、こんな関係を諫めるのは、おっさんの方でしょうとリタは眉間に浮かんだ皺を押さえている。怒る気力もないらしい。

『いいわよ。じゃあ、行ってくるわよ』

そんなやりとりを思い出しては、やっぱり、家で昼寝でもしてりゃ良かったと思った。

おめでとうという声に、レイヴンが、ふと、周囲を見渡せば、教会の入り口には新郎新婦が出てきている。友人や親族から少し離れて、レイヴンはその様子を見守っていた。花びらが舞いライスシャワーが降り注ぐ。

「じゃあ、投げるわよ」

新婦が手にしていた真っ白な大輪の花と水色の小花の花束が、ふわりと空に投げ出される。

「あ……」

考えるよりも身体が動いたというのか、まるで狙ったかのようにその場所に降ってきたものを受け止めてみれば、周囲の視線が何か冷ややかだった。特に新婦の友人達、主に女性からは、どうしてという視線が突き刺さる。

「ええっと……」

片手で頭を掻くしかない。レイヴンが受け取ったのは花嫁が投げたブーケ。

──何で俺様が受け取らなきゃいけないのよ。

青い空を見上げたが、周囲の失笑も微かに聞こえてきたようだった。


休日のショッピングビルは、流行りのブランドの集積型店舗だけに、リタ達と同年代から少し上の世代、稀に若い親子連れが多少目立つ程度ながらも、それなりに賑わっていた。
その一角、普通の女子高生が好きそうなブランド店舗に三人は居た。

「こっちの方が似合うんじゃない?」
「そうですか?やっぱり、あっちの方も気になるんです」

うーん、と小首を傾げる姿も可愛い親友は、あれこれ三時間は同じ店を行ったり来たり。「ユーリが買い物だけは付き合ってくれないんです」なんて言うのも理解出来るわと、少々うんざり気味なのはリタとパティ。中世の大航海時代の騎士と海賊の話だという最新の3D映画を観たいというパティの約束は終わり、次はエステルの番と連れ出された。当然、映画館では半分眠っていたリタだった。

「もう一回試着してみれば?」
「そうですよね」

先程から悩んでいた服を手にして、試着室に消えたエステルを二人は、はあとため息をついて見送った。

「ほんに、女性の買い物は時間が掛かるのじゃ」

あんたもその言い方、どうにかしなさいよと思うべきなのか、それとも、あたしらも一応は女の子なんだけどと思うリタだった。パティは、着いた早々に1階のフロアにあるカジュアル系ブランドで、これがいいとほぼ即決状態。既に、二つほど大きなショップバッグを持っている。そんなリタと言えば、あまり興味も湧かず、二人に連れまわされているような状態。

「リタ姐はいいのか?さっきから全然観ようともしないのじゃ」
「あたしはいいの。七階の本屋でも行ってくるから、終わったら来てよ」

パティが、ずるいと言いかけるよりも先にリタはその場から逃げだしていた。

もう、これならおっさんちで本でも読んでた方がマシだったわ。

リタがうんざりするのはエステルの買い物時間の長さだけではない。同い年ぐらいの高校生や大学生風のカップルを見ていると少しだけ羨ましいと思う時もあった。しかも、このファッションビルはそんな年代をターゲットにしている為、同じような格好をした同年代のカップルに少々、嫉妬めいた愚痴もこぼれそうになる。

別におっさんとこんなとこ来たい訳じゃないんだから。

ただ、正々堂々と言いたい。親友には嘘は吐きたくない。

ぼんやりとそんな事を考えながら歩いている時、何やら背後からの衝撃を受けた。
リタの横を通り抜けようとした子供がリタの目前で見事なスライディングを見せ、
子供の泣く声に驚いた瞬間、背中から脇腹にかけて何やら冷たい濡れた感触。

「痛いっ。何?」

隣では四、五歳程度の子供が転んだ拍子にリタの声などかき消すような大声で泣き始めている。

「大丈夫?」と、子供に声を掛けようと思った時、上に羽織っていたパーカーは暑いから脱いだ時に手に持っていたのだが、それすらにもべっとりと付いたのはチョコレート色のアイスクリームだと気が付いた。 当然、下に着用していたTシャツにも見事にチョコレートが付いている。

「走るなって言っただろ。すいません、君、大丈夫?」

泣く子供を起こす若い父親らしき男性に「ごめんなさい。大丈夫だった?」と母親らしき人がリタに謝罪しながら、汚れた部分を拭きとろうとしたのだが、汚れは余計に広がるような気配。

「大丈夫ですから、気にしないでください」
「ごめんなさい。服、汚したわよね。良かったらクリーニング代も払うから、そこで着替え買わない?」

え?ええ?とリタが混乱したまま、丁度、転んだ通路の前には、余り趣味ではないと思うギャル系が売りのショップがあった。それほど、派手な雰囲気の店ではない。多分、リタぐらいの年齢の子なら好きそうだと思われたのか。

「いえ、そんな悪いです」「こっちが悪いのだから」と押し問答。いい加減、逃げようかと思うのだが、さすがに、このままの格好でうろつくにも体裁が悪い。

「リタ、どうしたの?」

振り返れば、ようやく決定したらしくエステルとパティが其々大きなショップバックを抱えて立っていた。あんたら、買い過ぎじゃないのと思うリタだった。

「あら、お友達?」
「ええ……はい」

エステルもパティもリタの服についた汚れを見ては、何かアクシデントが起きたのだろうと思ったらしい。母親らしき人がエステルに向かって話し始めた。

「そう。じゃあ良かったわ。うちの子が転んじゃった時に、こちらのお友達の服を汚してしまって、一緒に選んであげてくれない?さっきから、遠慮しているし」

エステルとパティは顔を見合わせたが、「はい。いいですよ」とにこやかにほほ笑んだ。リタは、何となく嫌な予感がした。



「あーもう疲れた」

帰宅後、ソファにどすんと座り込んでは、はあ、とため息も出る。あまり履き慣れないサンダルのせいで足も浮腫んだのか、どことなく重く痛い。しかも、外に出ればうだるような暑さが待ち構えていた。

帰宅といってもレイヴンの自宅なのだが、冷房を付け、冷たい麦茶を飲み干すと散々な一日だったと思う。

エステルがまた悩み始める上にパティもあれもこれもと持ってくる服に着せ替え人形じゃないんだからとキレ気味になりかけた。結局、全員一致でこれが似合うと言われしぶしぶ着替えた上に、エステルが、これを合わせたらいいというアクセサリーまでもってきては、それまでも支払いをするという夫婦に、最後は甘える羽目になった。

あ、本屋行くの忘れてたじゃない。いい加減、着替えよう。おっさんに見つかったら何言われるか分かんないわ。

そう思った時、玄関の扉が開く音がした。今日は何やらツイてない。



「おっさん、どうしたの、それ?それ持ったまま帰って来たんじゃないでしょうね?」

おっさんと花束ならまだ百歩譲っても、それなりに、観れるだろうが、おっさんと明らかに花嫁が持つというブーケという姿を見た瞬間、リタは笑うよりも呆れた表情を浮かべた。レイヴンにしてみれば、まだ笑ってくれた方がマシだった。

「だーって、仕方ないじゃない。キャッチしたんだから」
「誰か他の人にあげたら良かったのに」
「そう言ったって、花嫁本人から『先生、受け取ってください』なんて言われて貰ってくれる人なんていないでしょ?」
「まあ、そうだけど。それにしても、こんなブーケって……」

リタは似合わないと言いたいのだが、レイヴンはどうやら勘違いした模様。

「俺だって知ってますよ。花嫁のブーケを受け取ったのが次の花嫁になるとか何とか云うんでしょ」
「えっ、そうなの?」
「……リタっち、女の子なんだから、それぐらい常識で知っておこうよ」

ふんと拗ねた顔を覗かせて、リタは横を向く。そして、玄関の扉を開けた時から気が付いてはいたのだが、今日のリタの服装といえば、珍しい程に女の子という風体。普段なら、キャミソールかTシャツとショートパンツ、もしくは制服なのだが、白いオフショルダードレスのミニ丈のワンピース。胸元はボリューミーなフリルがひらひらとしており、ウエストシェイプされたスカートはギャザーたっぷりに、裾がふわりと広がっていた。飾り気のないシンプルな物だから、着る人の姿を現すような服装。確かに、リタは黙っていれば、美少女と言うような顔立ち。その上、あまり外に出たがらない生活も送っている為に、肌理の細かい肌は白く、柔らかだった。

なんだか、花嫁さんみたいじゃないの。

教え子のウェディングドレスに比べると華やかさからは程遠いにしても、花嫁よりもずっと綺麗だわと惚気も口に出そうになる。ただ、そんな事を言えば、どんな仕返しが待っているか分からない。素直じゃない彼女持つと大変なのよ。

「……どうしたの?その格好。そんな服持ってたっけ?」

多分、レイヴンから問われると予想していのは見事に命中。何やら忌々しげな表情。

「アイス持って走ってきてた子供とぶつかって汚したのよ」
「あら、それは災難だったわね」
「ほんと、最悪よ。だから、近くにあったお店で買って着替えて帰って来たの」

服の代金は子供の親が支払ってくれたけど、と付け加えたが。

「でも、何だか新鮮。やっぱりリタっちも女の子なのねえ。なんだか花嫁さんみたいで可愛いわ」

レイヴンとしては、素直な感想。やっぱり、俺様の彼女は可愛いと太鼓判を押す。だが、当のリタにしてみれば、素直に受け取る筈もない。

「おっさんこそ馬子にも衣装っていう奴なんじゃない?」
「酷っ。散々、キャーキャー言われたのよ」
「あーら、そんな事誰が言うのよ。そんなのでヤキモチ焼くほどじゃないわよ」

なかなか敵も手強くなってきているとレイヴンは思うしかない。だが、頬を染めて、「きゃあ、そんな事ないわよ。うふっ」と言われるよりも、こんな皮肉の応酬的な会話のやりとりを出来るリタの方が可愛いと思うようになってきているのは、俺ってマゾなのか?と微かに思い始めている。

「しっかし、暑かったわ。帰り道で倒れそうだったもの」

そう言いながら、シルバーグレイのネクタイを緩める仕草をした。

「今日は暑かったから」と、言いかけたリタだったが、その何気ない仕草に言葉を一瞬失いかける。レイヴンもまた、普段とは違う姿。学校内での式典などでスーツ姿は何度か見かけた事があるが、きっちりとネクタイを結んだ姿は早々に見た記憶がない。それこそ、ネクタイを緩ませる仕草に、妙な男という色気を覚えたのは、いつもなら束ねた髪すらも、きちんとおろして無精髭も剃っているからだろうか。

おっさんをカッコイイなんて思うなんて、あたし、熱中症にでも罹ってるのかなあ。うん、でも、おっさんもこうやってきちんとした格好したらそれなりに見れるのよね。

なんて、こちらは言う筈もない。

「っていうか。おっさん、何時までブーケ持ったまま玄関でいなきゃならないのよ」

いい加減、入れて欲しいんだけど。おっさんちよ、ここと喚きだした、レイヴンを煩いわねとリタは冷ややかに見つめ言い放った。

「早く入ればいいじゃない」

くるりと背を向けたリタに、レイヴンは靴を脱ぐために屈んだ。

「あ、リタっち」

「何よ」と振り返れば、片膝をついて恭しく屈むレイヴンの姿。何故か、その姿にリタは既視感を覚えた。

何故か、中世のお城のような場所が瞬時に浮かぶ。厳めしいまでの室内は、何か旗のようなものが掲げられている。そこで、レイヴンと言えば格好こそ違うが、髪を下ろしたその相貌はどことなくリタの知る顔ではない。随分と凛々しくて精悍。騎士というような甲冑を身に付け、橙色のような服を着ている。そして、リタは今と同じ色のドレスを着ていた。シルクのような光沢のあるドレスに身を包み、頭には、白と水色の花で編まれた花冠、アンティークレースのような複雑な織をしたヴェールを被っている。
今と同じように跪くレイヴンはリタの手を取っては、その手の甲に口付けしていた。

あれ?こんな場面、何かで観なかったけ?え?何、これ。

動揺するリタだったが、ああ、そうだ。パティと今日観た映画のワンシーンだろうと思いこむことで記憶を消した。確か、登場人物がおっさんのヘアスタイルが似てたっていう印象だけあったもの。そうよ、脳の残像。刷り込みの記憶よ。

「な、何してんのよ」

それよりも、変な幻覚まで見せたレイヴンのこの芝居がかった様子に困惑。やっぱり、あたしもおっさんも熱中症に罹ったのかなあと思うしかない。

「いいから。おっさんにちょっとは付き合ってよ。面白い事思いついたんだからさ」
「もう。何なのよ」

正面に立ち、この芝居に付き合うあたしもどうなのよと思いながらも、何時になく神妙なレイヴンに思わず笑いそうになるも、ここは我慢。

「リタ・モルディオ嬢。どうか、我が想いを受け取ってください」

差し出されたのは、キャスケードブーケ。カサブランカの白と水色をした小花がそれを取り囲んだブーケは、豪華な雰囲気もあるのだが、無造作に束ねたようなキャスケードブーケの持つ素朴な印象も受けた。

あ、さっきのあたしが被ってた冠と同じ色だ。

どういう気持ちで、こんなことをしているのだろうとレイヴンを見たのだが、その顔は幻覚だと思った騎士のような容貌。凛々しくて、普段のおっさんとは似ても似つかわない。

「え?」
「いいから、受け取んなさいよ。おっさんが持っていても仕方ないでしょ?」
「あ、うん……ありがと」

ブーケを受け取り、リタは微笑んだ。

そっとブーケに顔を近づけてみれば、甘い香り。さっきのは何だったんだろ?と思うも、まあ、いいかと納得を見せては、花嫁のような初々しい笑顔を見せた。

あら、本当に花嫁さんじゃないの。こんな可愛くて綺麗な表情するのね。

と、レイヴンが思うと同時に、リタは油断したと思った。
素直に飾り気のない笑顔を見せてしまった、と。
どこまで、あたしってば捻くれているんだろうと思うが素直に悲しい。だが、それよりも、大仰に驚く素振りをみせたのはレイヴンの方。何やら、感動したと言わんばかり。

「……どうしたのよ」
「おっさん、今、絶句してたの」
「はあ?」
「リタっち、凄い可愛いくて、言葉が出なかったの」

どうやら、本当に感動していたらしい。いちいち、大げさすぎんのよ。
でも、ここまで言うのなら、もっと驚かせてやろうとリタは思った。

「……ね、おっさん。あたし、次の花嫁になれるかな?レイヴンの花嫁に」

レイヴンの顔は見なかった。その言葉を口にした途端、やっぱり、熱中症に罹ったんだと思うようにして、リタは別の部屋に逃げていた。取り残されるのは、茫然としたレイヴン。

「……ちょっとからかうつもりだったのにね。えーと、おっさん、どう答えたらいいのよ。何なら明日にでも次の花嫁さんになる?」

別の部屋といっても、寝室ぐらいしか後は部屋は無い。そうなれば、今晩は散々、虐めてやろうと密かに思うバカな中年の思惑をリタはまだ知らなかった。

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